熱力学 読書記録 (導入~等温操作、断熱操作)

田崎先生著の熱力学を読んでいるのでそのメモ書きを記そうと思う。中身の詳細は本を読んだ方が早いので、大事だと思ったところを書き残していくつもりでいる。飽きたらやめるかもしれない。

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物質についての知見を取り入れようと思い、少しずつ学んでいる。大学基礎レベルの力学、電磁気学は一通りさらったつもりでいるので次は熱力学かと思ってこの本を手に取った。

導入

高校でも熱力学は学ぶ。自分は何もかも忘れてしまっていたが、大学受験対策サイトなどを見て思い出すと「理想気体」「比熱」「熱サイクルの効率」あたりがキーワードのように見受けられる。高校過程では気体は分子の総体によって構成されていることを前提として気体の持つエネルギーについて論じていた。一方でこの本では気体を分子の総体として見ずに、少数の(当たり前と思える)前提から数理的な理論を組み立てている。歴史からすると熱力学自体は19世紀に完成し、その時代では原子論は現代とは異なり異端的であったとされるから、分子などの考えを導入しなくても熱力学が成り立つのは確かにそうなのだろう。気体を分子の総体として見たときの分析は統計物理という発展的な分野の範囲になってくるのだと思っている。

熱力学では物質を閉じた容器の中に幽閉して色々な操作 (押しつぶしたり、引き伸ばしたり、仕切りで区切ったり、混ぜたりなど) を施したときにどのような変化が生じるのかを論じる。特に、エネルギーが考察の中心的存在となるように見える。物質の状態としては気体の方がイメージしやすいが、理論としては液体や固体でも良いようである。熱力学では平衡状態にある静的なもののみを対象とする。これは容器内の物質はどこを取っても同じような状態であることを意味する。逆に言うと容器の中でいろんな乱流や化学反応が起こっているような状態の物質は(平衡)熱力学の対象からは外れる。

平衡状態にある物質は温度T、体積V、物質量n、の3つの物理量によって特徴づけられるものと考える。物質が外部に働きかける圧力はこれらの関数であり p(T; V, n) のように表されるものとする。理想気体は p=nRT/V となるようなモデルである。実際にはこれが成り立つ範囲は限定的である。熱力学では気体のモデルを具体的に定めず、一般的な立場からどのような性質が成り立つかを分析していく。理想気体は特殊ケースとして考える。熱力学では考察対象を容器内の物質とは言わず、系という言い方をする。

ところで、容器に閉じ込めた系を考える意義はなんだろうか。歴史的には産業面からの要請が大きかったようである。何かを燃やすことで力学的エネルギーを得る装置は熱機関と呼ばれるが、その効率を高めることは産業的な意義が大きく、装置の開発にはいろいろな努力がされていたのだろう。燃やしたら燃やした分だけ人間にとって有益な力学的エネルギーに換えられればベストだが、実際には限界があるのである。これを数理的に示すことに一つの意義があると見ている。昨今では CO2 排出削減のため熱機関は冷ややかな目で見られつつある気もするが、しかしだからこそ大事なのだろうか。また、化学反応を考える際にも重要なようである。

等温操作

温度T, 体積V, 物質量n の組を系の状態量だと見なし、状態量をいろいろ変化させたときのエネルギーを分析するのがこの本の中心的な話題となる。

熱力学では等温操作と断熱操作を基礎に理論を積み上げていく。なぜだろうか。

等温操作は系外部の温度が一定であり、操作の始状態と終状態で温度が一致する操作を指す。系の温度自体を常に固定しているのではわけではないことに注意する。操作の過程で系を断熱したりしてもよい。

この本ではまず等温操作で色々な操作を行ったときの系が外部に行う仕事を分析するところから話が始まる。等温操作を考える動機は第二種永久機関が存在しないことを前提にするためであると捉えている。等温環境下で、ある状態から何らかの操作を行って同じ状態に戻ってきたとき、その系が外界に対して行う仕事は正ではないという前提である。この前提をもとに系が外部にする仕事について考えると、等温環境下では力学で言うポテンシャルエネルギーに相当する概念を作ることができるようになる。ヘルムホルツの自由エネルギーと呼ばれる量である。

断熱操作

一方で、断熱操作は容器が断熱されていて系が外部と熱のやり取りを行えない状態での操作を指す。断熱操作は等温操作と対になる関係というわけではなく、例えば断熱しつつ何かの操作をした結果始状態と終状態で同じ温度になっていれば、それは断熱操作でもあり等温操作でもあると見なせる。ここで重要になってくることは、系が外部にする仕事についてである。等温操作の場合はどんな操作を施したのか、例えば気体を高速に伸縮させた場合とゆっくり伸縮させた場合では、始状態と終状態が同じでもその過程によって外部への力学的仕事の量が変わってくる。一方で断熱操作の場合には経路には依存せず始状態と終状態が決まれば外部への力学的仕事は一意に定まるという前提を置く。これは熱が遮断されていればエネルギーは保存されるということを言っているので、熱力学上でのエネルギー保存則であると見なせる。この前提をベースに、系そのものが持つ内部エネルギーを定義することが可能になってくる。系の正体が何なのかを触れることなく、である。

ここまでは特殊な操作を考えたときに何かのエネルギー量を定義しただけで、なんだか特別な世界の話をしているようであった。より一般的な世界に入るのはここからだが長くなったので一旦区切る。

余談:どうやって実験するの?

本だと特に触れられていないが、熱力学に関する実験をする場合どうするのだろうと思った。容器の中で気体の容積を変えたりすると容器が破裂したりしそうで大変危険そうに見える。大学実験などで熱力学に関する実験を行うときはどのような装置を使うのだろうと思い少し調べたところ、等容変化に関する実験であれば以下のような装置で比較的簡潔な構成で行えるようである。それでもある程度の高温や高圧を扱うことになるし、諸々の測定器も必要になるからなかなか重厚な印象を受ける。

以下は東京都市大学の講義資料で見かけた図: https://www.comm.tcu.ac.jp/~mse/uploads/2016/07/00846a981b418da93bddfb62a6af2971.pdf